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東京地方裁判所八王子支部 昭和39年(ワ)564号 判決

原告 村田清作

〈ほか一名〉

右訴訟代理人弁護士 光石士郎

同 橋本和夫

同 河鮨誠貴

被告 中山美佐江

〈ほか三名〉

被告 株式会社十条木材市場

右代表者代表取締役 菊地健治

右訴訟代理人弁護士 渡辺吉男

主文

原告村田清作、被告中山美佐江、同中山正則、同中山寿治、同中山美津江は、別紙目録(一)ないし(六)記載の土地建物を競売し、売得金を原告村田清作九九分の八九、被告中山美佐江九九分の四、その余の被告各九九分の二宛の割合により分割せよ。

原告中山清一、被告株式会社十条木材市場は、同目録(七)(八)記載の土地を競売し、売得金を原告中山清一九九分の八七、被告会社九九分の一二の割合により分割せよ。

原告中山清一、被告中山美佐江、同中山正則、同中山寿治、同中山美津江は、同目録(九)記載の土地を競売し、売得金を原告中山清一九九分の八九、被告中山美佐江九九分の四、その余の被告各九九分の二宛の割合により分割せよ。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

事実

原告両名訴訟代理人らは、主文同旨の判決を求め、(訴状請求の趣旨らん中、主文第二項に対応する部分において原告中山清一九九分の八九、被告会社九九分の一〇とあるのは、それぞれ九九分の八七、九九分の一二の誤記と認める。)その請求の原因として、

「別紙目録(一)ないし(十五)記載の不動産は、もと亡中山勝蔵の所有であったが、同人は昭和二三年八月六日死亡し、妻やえ、嫡出子長男一太郎、長女さち、二男英次、二女タツ(当時既に死亡)の長女清沢春子、三女てつ、非嫡出子原告中山清一が共同相続によってその所有権を共同承継取得し(第一次相続)、右共同相続人のうち一太郎が昭和三一年一月一三日死亡し、妻被告中山美佐江、養子原告中山清一(昭和一一年一〇月一六日一太郎および妻キミと養子縁組成立)、嫡出子長男被告中山正則、次男中山寿治、長女中山美津江が共同相続によって一太郎の第一次相続分をさらに共同承継した(第二次相続)。

その結果、原告中山清一は、被相続人亡中山勝蔵から第一次相続分三三分の二を取得し、さらに加えて、被相続人亡中山一太郎から第二次相続分六分の一を取得し、結局前記不動産につき第一次第二次相続により全体として合計九九分の八の共有持分を取得した。また、被告中山美佐江は、被相続人亡中山一太郎から第二次相続分三分の一を取得し、一太郎の第一次相続分三三分の四の三分の一なるが故に、全体として九九分の四の共有持分を取得し、被告中山正則、同中山寿治、同中山美津江はそれぞれ、被相続人亡中山一太郎から第二次相続分各六分の一宛を取得し、全体として共有持分は各九九分の二となった。

二 その後、昭和三三年二月二五日、第一次共同相続人らのうち、やえ、さち、英次、清沢春子、てつは、亡勝蔵が生前「財産は一太郎にはやらぬ。全部清一にやる。」といっていた意思に従い、各第一次相続分を原告中山清一に贈与したので、原告中山清一の共有持分は九九分の八九となった。(なお後述四参照。)

三 原告中山清一は、昭和三三年七月二日、別紙目録不動産のうち(一)ないし(六)の共有持分九九分の八九全部を原告村田清作に売買譲渡し、同年同月四日持分移転の登記手続を完了した。

四 これよりさき、亡一太郎は、その生前である昭和三〇年三月二九日、別紙目録(七)(八)記載の土地を訴外田端倉太郎に売却し、田端は一太郎死亡後である昭和三二年六月一五日、被告株式会社十条木材市場に転売した。よって、一太郎が取得した第一次相続分に相応する共有持分は被告会社に移転した。(従って、弁論の全趣旨によれば、原告中山清一は、自己の前叙二に掲記の共有部分は、(七)(八)の土地については、九九分の八七である旨陳述したものと認められ、訴状請求原因らんに共有持分九九分の八九とあるは、(七)(八)の土地については不完全な記載と認めるべきである。)

五 被告会社代表者菊地健治は、一太郎の死亡の前後、一太郎の妻被告中山美佐江に近づき内縁関係を結び、中山家の財産を管理支配しようとし、被告中山美佐江は、亡中山勝蔵の遺産を全部自己所有と主張し始めたため、一太郎死亡後である昭和三二年中、浦和家庭裁判所川越支部に第一次、第二次相続につき一括して遺産分割調停が申立てられ繋属するに至ったが、(申立人中山やえ、中山清一、中山英次、岡田さち、金沢てつ清沢春子、相手方中山美佐江、中山正則、中山寿治、中村美津江)、菊田安治が出頭してきて全財産が美佐江のものと主張するため、不調に終った。

また、被告会社は、昭和三三年五月一六日、原告中山清一に対し、別紙目録(七)(八)の二筆の山林につき譲渡禁止の仮処分決定を得、さらに同年六月三〇日、飯野簡易裁判所に原告中山清一に対する右土地についての所有権移転登記請求の訴を提起し、敗訴して浦和地方裁判所に控訴し、控訴審において裁判上の和解が試みられたが不成立に終わって再び被告会社が敗訴し、上告して破棄差戻しとなって原審で審理中(浦和地方裁判所昭和三七年(レ)第三五号)、職権で裁判上の和解が試みられ、和解は事実上本件物件全部を対象として進行したが、本件原告中山清一、同村田清作に対する相手方(本件被告らの)要求は、(三)の建物を中山清一の所有として中山正則のためにこれを賃借したい、あるいは、株式会社十条木材市場が清一および村田の権利全部を六六万円で買取りたい、などという条件であったために、ついに和解は成立しなかった。

その後、被告中山美佐江、正則、寿治、美津江、被告会社の側から、美佐江ら母子四名は被告会社の代表者菊地健治が代理して、昭和三八年一〇月初頃から原告中山清一に対して二回にわたり裁判外の示談の申入れがあり、その都度清一はこれに応じ、原告村田清作の共有持分については、共有物分割について同人から一任されて代理権限を有していたので、同人を代理して交渉したが、被告らが清一と村田の両名の共有持分を無視する態度を執るため、ついに協議は調わなかった。

次いで昭和三九年七月頃、原告中山清一から被告らに対し、譲歩案を提示して協議を求めたが、被告らは右提案に応じなかった。

六 以上の次第で、原告らと被告らとの間には、共有物分割の協議が調わないので、農地である別紙目録記載(十)ないし(十五)の土地を除き、(一)ないし(九)の共有不動産につき民法第二五八条の規定により分割を請求する。そして、これら不動産は、次のような事情によって現物分割不可能または現物分割によって著るしくその価格を損ずる虞れがあるので、競売による他はなく、競売による売得金の分割を請求する。

1 (一)と(二)との各土地は、(三)の各建物の敷地となっているので、いずれも現物分割できない。

2 (四)(五)(六)の各土地は、それぞれ離れて所在し、しかも現物分割すれば、例えば九九分の二の共有持分相当坪数はわずか(四)の土地は〇坪三〇三、(五)の土地は一坪六七六、(六)の土地は一坪三九三となり、著るしくその価格を損ずること明らかである。

3 (七)(八)(九)の各山林は、地上立木(杉)の存在によって価値があるところ、分割による境界線設定によって、線上の立木多数を伐採するか、伐採を避けて迂余曲折した境界を設けるほかなく、このような分割は、その価格を著るしく損ずる虞あるか、分割不能というべきである。」と述べ、

被告らの答弁に対し、

「被告らの主張事実はすべて否認する。

(三)の建物のうち(ハ)が亡一太郎の建築所有であることは否認する。(イ)(ロ)は、原告から被告中山美佐江を相手方とした浦和地方裁判所昭和三三年(ヨ)第三号建物占有移転禁止、現状変更禁止の仮処分申請事件において右仮処分決定がなされたにかかわらず、被告中山美佐江は、右仮処分決定に違反して、修理を加え、旧来のしっかりした建物を損壊し、その場限りの見栄えのよい建物に化し、ベニヤ板、トタン板、安材料による工事をしたため、現在では破損甚しく価値は却って減少してしまっている。」と述べ、

被告ら訴訟代理人は、「請求棄却」の判決を求め、答弁として、

「一 原告主張に係る一の事実中、第一次相続財産中に別紙目録(三)の(ハ)の建物が含まれていること、原告中山清一が第一次相続の共同相続人の一人であること、従って各共同相続人の相続分を否認し、(なお後述(四)参照)、その余の事実を認める。二および三の事実は否認。四の事実は認める。五の事実のうち、遺産分割の調停の繋属とその不調、被告会社と原告中山清一との間における仮処分、所有権移転登記請求訴訟の経過、裁判上和解の進行と不成立の事実は認めるが、その余の事実は否認する。六の事実は否認する。

二、原告ら主張の共有物分割協議がなされたことはない。

三、仮りに、分割協議が行われ且つ調わなかったとしても、原告が被相続人亡中山勝蔵の相続財産と主張する物件のうちには、右相続財産に属しない物件がある。すなわち、別紙目録(三)の(ハ)の建物は、亡中山一太郎が建築所有したものであって、原告らが亡勝蔵から相続によって相続分を取得するに由ないのである。なお、(三)の(イ)(ロ)の建物は、被告中山美佐江が夫一太郎死亡後の昭和三三年一月頃と昭和三九年七月から八月にかけての両度に大修理を加え、坪価額として一〇〇万円を増したので、分割協議において右増加値を考慮されるべきである。

四 仮りに二および三の主張が容れられないとしても、原告中山清一は本件財産全部について第一次、第二次の相続分を合わせ取得したと主張するが、これは二重取得であって法律上ゆるされない。すなわち、原告中山清一は戸籍上亡勝蔵の庶子となっているが、実は亡一太郎の婚姻外の子として生れ、一太郎から認知されなかったのを、亡勝蔵が自己の庶子として昭和四年三月一七日生れとして出生届をしたのである。それ故、原告中山清一は、亡勝蔵を被相続人とする第一次共同相続人のうちから除外すべく、亡一太郎の養子(昭和一一年一〇月一六日一太郎および妻キミと養子縁組成立)としてのみ、亡一太郎を被相続人とする亡一太郎の相続財産のみについての第二次共同相続人の一人たるに過ぎない。

五 本件共有物分割については、現物分割が可能であり相当である。従って競売は不相当である。

六 仮りに判決により競売による売得金の分割をするとしても、原告主張の共有持分によるのは不当であって、前叙の諸事実、すなわち、(三)の建物(イ)(ロ)の増加値、(ハ)の建物が亡一太郎の単独所有であること、原告中山清一の二重相続分などが前提されなければならない。」と述べ(た)。

立証≪省略≫

理由

一  別紙目録(一)ないし(十五)記載の不動産目録((三)の(ハ)の建物を除く)が、もと亡中山勝蔵の所有であったこと、同人が昭和二三年八月六日死亡し、少くとも妻やえ、嫡出子長男一太郎、長女さち、二男英次、二女タツ(既に死亡)の長女清沢春子、三女てつが共同相続人であったことは当事者間に争いがなく、原告中山清一が一太郎の婚姻外の子で、一太郎によって認知されず、勝蔵が昭和四年三月一七日生れの自分の庶子として出生届をしたことは、≪証拠省略≫によって認めることができ(る)。≪証拠判断省略≫被告らは、右のような身分関係にある清一は、法律上勝蔵の相続人ではないと主張するが、相続法律関係における親子関係の不存在は、人事訴訟法による親子関係不存在確認判決の確定によって戸籍が訂正されない限り、その不存在の事実のみをもって、現に戸籍上庶子として登載されている法律上の親子関係を無視して相続欠格事由とすることはゆるされない。しかるにかかる判決の確定、戸籍の訂正はないから、被告らの主張は理由がなく、原告中山清一は、亡勝蔵の共同相続人に含まれるべきものであり、前記不動産所有権は、やえ、一太郎ら前記六名と清一の七名によって共同承継取得されたというべきである。(以下、第一次相続と称する。)

二  別紙目録(三)の(ハ)記載の建物が亡中山勝蔵の死亡当時、同人の所有で相続財産の一部であったか、亡中山一太郎の所有で相続財産から除外すべきであったかについて当事者間に争いがあるので判断するに、≪証拠省略≫によって、亡勝蔵の所有建物であったと認められ、仮りに一太郎が手を加えたとしても附合によって勝蔵の所有従って本件共同相続財産たることに変わりはなかったものと認められる。

三  右共同相続人のうち一太郎が、昭和三一年一月一三日死亡し、妻である被告中山美佐江、養子である原告中山清一(昭和一一年一〇月一六日一太郎および妻キミと養子縁組成立)、嫡出子長男被告中山正則、次男中山寿治、長女中山美津江の五名が共同相続によって一太郎の第一次相続分を共同承継したことは当事者間に争いがない。(以下、第二次相続と称する。)

四  そして、特定財産を相続財産とし甲を被相続人とする共同相続人のうちの乙が、その後当該共同相続人のうちの丙を被相続人とし当該財産に対する丙の相続分を相続財産とする別箇の相続関係において別箇の相続適格を有するときは、乙は前の相続関係における相続適格による相続分を取得するとともに後の相続関係における相続適格による相続分をも取得することは、前後両相続関係におけるそれぞれ別箇の相続権の正当な法律効果であることはいうまでもない。甲乙丙間に亡中山勝蔵(甲)、原告中山清一(乙)、亡中山一太郎(丙)間における前認定のような身分関係があるとしても、両相続関係における各相続適格が適法である限り、この理にかわりはなく、前後両相続関係における乙の各相続権の効果が相互に影響を受ける理由はない。原告中山清一は、前認定のとおり第一次、第二次の各相続関係においてそれぞれ別箇の相続適格を適法に有するものというべく、各相続分をともに取得したものというべきであり、二重取得などというものではない。

五  よって、以上第一次、第二次の共同相続によって、各共同相続人の法定相続分は、原告中山清一が、第一次相続分三三分の二(庶子として嫡出子の二分の一)、第二次相続分六分の一(一太郎の第一次相続分三三分の四の六分の一の意)の合計、全体の九九分の八となり、被告中山美佐江が第二次相続分三分の一(一太郎の第一次相続分三三分の四の三分の一)すなわち全体の九九分の四となり、被告中山正則、同寿治、同美津江がそれぞれ第二次相続分各六分の一、すなわち全体として三三分の四の六分の一たる九九分の二となる。そして、各人とも、前記不動産につき右各相続分に相応した各共有持分を取得すべきものというべきである。(但し原告中山清一の目録(七)(八)の山林二筆については後に八で述べる。)

六  ≪証拠省略≫によれば、第一次共同相続人らのうち、やえ、さち、英次、清沢はる子、てつが、共同相続後の昭和三三年二月二五日、各共有持分を原告中山清一に贈与し同年三月五日その旨の持分移転登記手続を経由したことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。かくて、原告清一の共有持分は、全体の九九分の八九となったことが認められる次第である。(目録(七)(八)の山林二筆については後に八で述べる。)

七  そして≪証拠省略≫によれば、原告中山清一が、昭和三三年七月二日売買により、目録(一)ないし(六)記載の不動産について共有持分九九分の八九全部を叔父である原告村田清作に譲渡し、同年同月四日その旨の持分移転登記手続を経由したことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

八  これよりさき、亡一太郎がその生前、昭和三〇年三月二九日、目録(七)(八)記載の山林二筆を訴外田端倉太郎に売却し、田端が、一太郎死亡後である昭和三二年六月一五日、被告株式会社十条木材市場に転売し、よって亡一太郎が取得した第一次相続分に相応する共有持分が被告株式会社十条木材市場に移転したことは当事者間に争いがない。そして右共有持分が全体の三三分の四であることは、前に三に述べたとおりである。従って、右二筆の山林については、原告中山清一ら亡一太郎の共同相続人らは亡一太郎の第一次相続による右共有持分三三分の四を共同承継していないものというべきである。従って、右二筆の山林については、原告中山清一の共有持分は、第一次相続によって亡勝蔵から承継取得した分のみであって、第二次相続によって亡一太郎から承継取得すべかりし九九分の二を除くので結局九九分の八七となる。

九  次に、原告両名と被告らとの間に、共有物の分割協議が調わなかったことについて判断する。

昭和三二年中、浦和家庭裁判所川越支部に中山やえ、中山清一、中山英次、岡田さち、金沢てつ、清沢春子から中山美佐江、中山正則、中山寿治、中山美津江を相手方として遺産分割調停が申立てられて不調となったこと、被告株式会社十条木材市場が、昭和三三年六月三〇日、原告中山清一を相手として、目録(七)(八)の二筆の山林につき、飯能簡易裁判所に所有権移転登記請求の訴訟を提起し、敗訴して浦和地方裁判所に控訴し、控訴審において裁判上の和解が試みられて不成立に終わり、控訴棄却となった被告会社が上訴して破棄差戻しとなり、原審で審理中(浦和地方裁判所昭和三七年(レ)第三五号)、職権で裁判上の和解が試みられたが、ついに不成立に終ったことは当事者間に争いがなく、右裁判上の和解においては、事実上本件物件全部を対象として、また訴訟当事者たる株式会社十条木材市場と中山清一との間においてのみならず、本件原告村田清作については中山清一が代理し、本件被告中山美佐江ら母子については右会社代表者菊地健治が代理したり、美佐江自ら出頭したりして、共有物分割協議が行われたが、協議は調わず、右和解は不成立に終ったこと、昭和三八年頃、浦和地方裁判所における訴訟繋属中に、本件被告らから本件原告両名を相手方として調停が申立てられたが、やはり不調となって分割協議の成立を見ることができなかったことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

一〇  そこで進んで、本件共有物につき現物分割の可否につき判断するに、≪証拠省略≫を綜合すると、

1  目録(一)の土地は目録(三)の(イ)(ロ)の建物の敷地であり、目録(二)の土地は目録(三)の(ハ)の建物の敷地であって、各建物について現物分割ができないことは事物の性質上から認めざるを得ないし、敷地を九九分の二とか九九分の四とかに現物分割することも、敷地としての性質を維持する上からみれば、社会通念上、相対的に不能である。

2  目録(四)(五)(六)の各土地についてみるに、(四)の土地は一五坪、(五)は八三坪、(六)は六九坪であるので、これを九九分の二とか九九分の四とかに現物分割すれば、その九九分の二または九九分の四は、(四)においては一坪に足らず、(五)(六)においては、一坪半前後または三坪前後と微細化されるのであって、その価格を著るしく損ずること明らかである。

3  (七)(八)の各山林については、九九分の一二と九九分の八七とに現物分割することは、観念的には不可能ではないとしても、地上立木の現物分割をも右比率によって同時に実現しなければならないことをも併せ考えると、現物分割可能と認めるに足る証拠がなく、証拠によって判断する限り、当裁判所としては、現物分割は現実的に不能とせざるを得ない。

4  (九)の山林についても、九九分の二または九九分の四に現物分割することが観念的に不能でないとしても、3におけると同様の理由により、現実的には現物分割不可能と認められる。

以上のとおりであるので、本件共有物の分割は民法第二五八条第二項の規定により、競売によって売得金の分割による他はないものと判断される。

一一  最後に、被告らは、本件共有物分割方法として競売による売得金の分割によるとしても、共有持分によって機械的に分割するのは相当でない、と主張する。

なるほど民法第九〇六条の規定によれば、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮してこれをする。」とある。そして民法第九〇七条第二項は、「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。」と規定する。

しかしながら、本件共有物分割の請求は、家庭裁判所による審判手続として遺産相続人間における分割請求ではなく、目録(一)ないし(六)の不動産については、遺産相続人に非ざる原告村田清作と遺産相続人の一部である被告中山美佐江母子との間の分割請求であり、目録(七)(八)の不動産については、遺産相続人の一部である原告中山清一と遺産相続人に非ざる被告株式会社十条木材市場との間の分割請求であって、いずれも民法第二五八条の規定による地方裁判所に対する請求である。目録(九)の不動産については、遺産相続人間の分割請求ではあるけれども、これまた民法第二五八条の規定によるものである。そして原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告らの競売による共有持分どおりの分割請求は絶対的な要請であることが明らかである。

そして、民法第二五八条の規定による共有物分割請求については、遺産分割における民法第九〇六条のような分割基準の定めがないのであって、これは客観的に共有持分による分割を当然に予定し裁量分割をゆるさないものとしたためと解すべく、「現物をもって分割を為すこと能わざるとき又は分割に因りて著しく其価格を損ずる虞あるときは裁判所は其競売を命ずることを得」(民法第二五八条第二項)るものとしているのは、一貫して共有持分による分割を予定し、裁量分割をゆるさないからこそ、競売命令という手段によって金銭分割方法に変形し、あくまで持分による分割を貫くこととしているものと解せられる。

被告らの主張は採ることができない。

一二  そうであってみれば、原告の本訴請求は理由があり認容すべきものであるので、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 立岡安正)

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